レストラン『みかわや』の小さな歴史は、日本の壮大な文明開化の歴史のひとコマでもある。創業時の姿は浮世絵師:四代広重の「銀座繁昌之図」の中にも描かれているが、現在の銀座通りにある「和光」のとなりに位置していた。創業者の保坂芳次郎がそこに「三河屋食料品店」として開業したのは、明治20年(1887年)9月のことである。彼は、徳川幕府300年に仕えた三河出身の保坂一族の末裔である。

後継者の保坂幸治は、明治末から大正、昭和にかけて文化人として激動の時代を生き抜いた。彼は銀座連合会会長として、銀座の変革と再興にかかわった。彼の人生は、NHKテレビの連続ドラマ「銀座我が町」の中で、三河屋を舞台にして見事に描かれている。

現在の『みかわや』は、終戦の混乱の中で前社長の渡仲豊一郎が先代より三河屋を受け継ぎ、現在地に『フランス料理 みかわや』として再興したものである。横浜ニューグランドホテルの初代料理長のフランス人エスワイルは、「日本のフランス料理人」といわれ、料理の真髄を日本に伝えた。渡仲豊一郎は、エスワイルの料理の真髄である”技(わざ)と心”を直伝された数名の中の一人である。

いま、東京は全ての分野で世界一になったと言っても過言ではない。世界の超一級品が東京に集合している。経済は規模から「質」に変わりつつある。味覚の原点は「シンプルさ」の中にあり、楽しさはそのハーモニーが作り出す。余分なものはそぎ落とし、食する者と作る者とが、その一皿を通して「味の深淵でかよい合える時」、それは至上の喜びである。